名前の読み仮名

 「この名前なんて読むの」。子どもの頃、そう問われることがよくあった。大人になったら、名字で事足りるからなのか、少なくなったものの、かつては学年が変わるたび、先生たちからも尋ねられた記憶がある。

 名前をどう付けるか、考え方は人それぞれ。明治の文豪・森鴎外は、長男に於菟(おと)、長女に茉莉(まり)、次男に不律(ふりつ)、次女に杏奴(あんぬ)、三男に類(るい)と命名。ドイツに留学した際、本名の森林太郎の「りんたろう」をうまく発音してもらえなかった経験から、子どもたちに海外でも通用する名前を付けたのだとか。今だと「キラキラネーム」。当時はさぞかし斬新だっただろう。こうした西洋風の名前は孫にも引き継がれ、於菟の5人の息子は真章(まくす)、富(とむ)、礼於(れお)、樊須(はんす)、常治(じょうじ)という。

 5月に施行される改正戸籍法では氏名に振り仮名の記載を義務化する。読み方がどこまで認容されるのか──。法務省の指針によると、漢字の意味や読み方との関連性がないものや子どもの利益に反するものは認められない。例えば心愛(ここあ)や桜良(さら)はいいが、太郎と書いて「まいける」、健を「けんさま」、高を「ひくし」とするのは駄目。

 キラキラネームなど名前の多様化は著しい。日々の編集作業で、それを実感している。記事の校正で参考にする「用字用語ブック」では「読みの難しい姓名や読み方に迷う姓名には、読みを付ける」とされている。難読か否か、その線引きに頭を悩ますことが多くなった。

(工)

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