吹く風の先に─能代山本と風力発電─ 地元にとって④

市場、生産体制も未熟

 洋上風力発電の大型部材が日本ではほとんど製造されていないことが、新たな産業の形成を困難にしている。インフラや製造拠点が未整備で、技術と生産のノウハウが不足しているほか、先行する欧州との市場規模の違いや政府の支援不足など、さまざまな要因が絡んでいる。
 日本国内では風車のタービンやブレード、タワーなど巨大な部材を製造できる大規模な工場や造船所がまだ十分に整備されていない。これらの部材は重厚長大なため、輸送面で制約を受ける。インフラが整い、製造から設置まで一貫体制が整う欧州とは対照的だ。
 洋上風力の市場が欧州に比べて小規模なこともボトルネックになっている。欧州では洋上風力が再生可能エネルギーの中核技術として早期に進展し、技術革新とコスト削減が進んだが、日本で導入が本格化したのはほんの最近だ。需要が十分に見込めないため、大規模な部材製造に向けた設備投資が抑制され、国内市場が成熟できずにいる。
 部材の製造には高度な技術が欠かせない。強風や過酷な海洋環境に耐える高品質な素材と精度が求められるため、特定のノウハウを持った企業や技術者に仕事が集中する。欧州では技術者やサプライチェーン(部品供給網)がすでに整っているが、日本はまだ発展途上にある。
 サプライチェーンの一角を担う部品製造工場を能代山本に誘致できる可能性はあるのか。能代市環境産業部の大谷勉部長は「まとまった風車のロットがなければならないが、国内では市場が形成されていないため、メーカーも日本に製造工場を建てる判断ができない」と市況の厳しさを認めつつ、「洋上風力は黎明期にあるのでメーカーも様子見だが、機会があるごとに工場誘致を働き掛けたい」と言う。
 しかし、日本では投資が進んでいない。日立製作所(東京)など国内の大手企業は、採算を考え洋上風力の製造から手を引いた経緯がある。欧州や中国が先を行く中、日本の風力発電産業は成長のスピードが遅く、まとまったサプライチェーンは国内に存在しない。政府は関連部品や建設の国内調達率6割を目標に掲げるが、大手メーカー関係者は「日本も風車を作れる技術はあるが、採算を考えると参入は難しいだろう」と悲観的だ。
 欧州は風力発電産業に長年にわたって投資を続けており、規模の経済が確立している。大量生産によるコストダウンが実現しているため、欧州で製造した部材を輸送する方が日本で製造するよりも経済的に有利になる。洋上風力のマーケットが小さい日本国内で製造するとコスト高になり、輸送費を考慮しても欧州製品が競争力を持ってしまう不利な状況が続いている。
 欧州各国は再エネ推進に関する助成金や税制優遇が充実しており、企業が風力発電設備に投資しやすい環境が整っている。日本でも政策が強化されつつあるが、十分とは言えない。最近は世界的なインフレで建設費の高騰も起きている。これらの要因が相まって、国内では大型部材の製造が遅れていると考えられる。製造能力を強化するためには技術的なノウハウの蓄積や政府による支援、製造インフラの整備が不可欠だ。
 そもそも洋上風力発電は、火力発電など他のベース電源に比べ経済波及効果が見込みにくい性質がある。経済産業省で電力・ガスの自由化などエネルギー行政を担当したことのある社会保障経済研究所(東京)代表の石川和男氏は「能代火力発電所は安全性や環境性の観点からやらなければならない点検が多く、従事者も多いため波及効果が大きくなる。対照的に洋上風車には誰もいない。バックオフィスはあるが、数十人規模にとどまる。電気を生み出す量が火力と風車では桁違いなので、おのずと波及効果にも違いが出る」と喝破する。
 日本風力発電協会によると、国内全体の電源構成に占める洋上風力の割合は1%に満たない。石川氏は発電量が少ないのは洋上風力の宿命だとし、「財界もメディアも洋上風力に過剰に期待し過ぎ。現に雇用も産業もほとんど生まれていないではないか」とグリーン成長の表裏を指摘する。
 人口減少が深刻な能代山本では財政規模が縮小して新しい事業に取り組むことが難しくなる半面、地域活性化に結び付く施策の重要性は増してくる。大谷部長は「国内に先駆けた洋上風力のプロジェクトが進むことで能代のイメージアップになり、企業誘致にもつながる。能代港には基地港湾もできた。風況も非常にいいので、これから国内で普及が見込まれる浮体式風車の誘致にもつなげたい」と将来展望を語る。
 能代山本をはじめとする本県沖の洋上風力事業は、環境に配慮した再エネの推進事例として注目されるが、県や関係市町は同事業が地域活性化にどれほど結び付いているか実態を把握し、検証すべきではないか。地元企業や自治体が主体的に関与し、技術移転や教育の強化、関連産業の育成を進めるなど、恩恵が地元に広がる仕組みづくりが求められている。

(若狭 基)

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