吹く風の先に─能代山本と風力発電─ 地元にとって③

発電事業者も貢献模索

 洋上風力の発電事業者が行う地域共生策は、国が事業者を選ぶ入札の評価対象になった。八峰町・能代市沖の発電事業者に選ばれた特別目的会社の代表社員ENEOSリニューアブル・エナジー(ERE、東京)は「地元貢献策、漁業共生策などいろいろ考えており、今後、漁協や行政と具体的な協議を行っていく。パートナーの秋田銀行は地元の会社と広く深いネットワークを持っているので、多くの企業を紹介してもらい、地元企業への発注を増やしたい」とこれから地域共生策を具体化させる考えだ。
 洋上風力を地域活性化に結び付けるにはどうしたらいいか。まずは発電設備の製造、設置、メンテナンスなど各工程において、地元企業が積極的に参加できる仕組みを整えることが重要だ。地元企業に技術支援や研修を行い、長期的な協力関係を築くことで洋上風力を地元産業として根付かせる必要がある。
 そのためには洋上風力の運営に関わる技術者やメンテナンス員など専門的な技術を持つ人材を地元で育成するための教育・研修プログラムの導入が欠かせない。県内の大学や専門学校と連携して専門講座を設けて地元雇用の機会を増やす取り組みも急務だ。
 「電力の地産地消は地元貢献・共生策の一つのテーマ。災害時の電力供給もそう。まだ具体化していないが、いろいろ考えている」。EREは、地元で要望が強いエネルギーの地産地消にも前向きだ。
 風力発電で得た電力を地元に供給し、低コストでエネルギー利用を推進する取り組みには多くの利点がある。一方で電力供給網の整備とコスト、電力供給の安定性、電力市場制度の制約、地元の産業基盤の未整備、地域電力の運営の難しさなど現実的な壁も存在する。
 現地でつくった再生可能エネルギー由来の電力を地元に供給することで、地域の産業創出や生活水準向上の可能性が広がる。能代山本でも再エネを利用した農業支援など地域の特性を生かした産業形成を模索する動きがある。 
 能代市と八峰町で陸上風車25基を建設中の白神ウインド合同会社(同市河戸川)は、風車から出る未利用熱や風車の地下埋設パイプから採取する地中熱をビニールハウスに供給して、通年農業をサポートする画期的な取り組みを進めている。両市町の活性化を支援する計画も同時に進めており、動向が注目される。
 ただ風力発電は天候に左右されやすいため、産業用電力として利用する場合、供給の安定性が課題だ。農業や水産業など電力の安定供給が生産性に直結する分野では風力発電だけに頼るとリスクが伴う。安定供給には蓄電池システムの導入や他の発電システムとの併用が必要になるが、初期コストやメンテナンス費用の面で負担が大きくなる。
 日本では再エネで得た電力の多くが全国規模の電力市場を通じて取引される仕組みになっており、地元だけで消費することは難しい。電力供給を地元限定にするには現行の制度の中で法改正や新たな許認可が必要になり、実現には多大な時間とコストがかかることが予想される。
 八峰町・能代市沖の洋上風力事業に参画する秋田銀行は「単に風を電力で都会に持っていかれるのではなく、何かしら地元に残るような仕組みを考えなければならない」と思案する。
 局面の打開に向け、社会保障経済研究所(東京)代表の石川和男氏は興味深いアイデアを提案する。「洋上風力で地域活性化を目指すなら、東北電力に能代火力発電所とパッケージにしてやらせるべき。CO2(二酸化炭素)を出す石炭火力と、CO2を出さない洋上風力が連携して脱炭素を目指すべき。洋上風力単体で地域振興を目指すのは非常に困難だ」。

■事業者の「振興基金」は

 能代市・三種町・男鹿市沖で洋上風力発電事業を行う「秋田能代・三種・男鹿オフショアウインド合同会社」(秋田市)は、売電収入の0・5%を20年間積み立てる基金を使って地域や漁業との協調・共生策を講じる。地域振興策は能代、三種、男鹿各市町が条例に基づき「地域振興基金」を設置して取り組む。
 八峰町・能代市沖で事業を担う「合同会社八峰能代沖洋上風力」(能代市)は両町市沖の発電規模(約36万㌗)に1㌗当たりの単価250円と海域占用期間の30年を乗じた金額を目安に地域還元の基金に積み立てる。当初は20年間の売電収入の0・5%を目安に基金として積み立てる方針だったが変更した。
 能代、秋田両港の港湾区域で行っている発電事業はこの2海域のケースと違い、地元の利害関係者と調整を図る法定協議会や地域振興の原資となる基金がない。洋上風力発電事業に関わってきた元県議は「県は国内に先駆けて能代、秋田両港に洋上風力を誘致したい一心でバタバタしていた。そのため、発電事業者に地域貢献策を求める発想が後手に回った」と指摘する。

(若狭 基)

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