吹く風の先に─能代山本と風力発電─ 地元にとって②

開発主体は大手・外資系

 洋上風力発電事業は大手企業を中心に運営されるため、利益や雇用が地元に還元されにくい構造的な問題を抱えている。風車の開発、設置、運営に数千億円規模の投資が必要で、資金力のある大手や外資系企業が出資の大半を担う。そのため利益が出ても出資企業や投資家への配当が優先され、地元に直接還元される部分が少なくなる傾向が強い。
 地元企業の参入機会が限られていることも課題だ。洋上風力発電事業は技術的なノウハウや経験が必要で、大手企業が自社や関連企業の専門技術者、設備を使用することが多いため、地元企業の参入機会が限られ、関連する雇用も地元に生まれにくくなる。風車の製造、設置、保守の各工程においても、外部の専門企業や海外のサプライヤー(取引先)が関わることが多いため、地元の企業が請け負うことができる業務は物流や陸上工事、基礎的なサポートなど一部にとどまる。
 大手企業の本社が地元にないこともネックだ。洋上風力発電を運営する大手企業の本社や管理部門は東京などの都市部に集中しているため、経理や企画などの管理職が地元に配置されることは少ない。利益が本社に集中することで、税収などが地元自治体に還元されにくくなる。
 高度な専門職が地元に少ないことも、洋上風力を縁遠いものにさせている。洋上風力の運営には風車の設計や保守管理、環境影響評価など専門的な知識と経験が必要だが、地元には専門職が少ないため外部から専門人材が派遣されることが多く、地元での継続雇用や技術が定着しにくい。
 発電した電力の地元利用が少ないことも影響している。洋上風力で作られた電力は基本的に全国規模の電力網を通じて供給されるため、地元の住民や企業が恩恵として実感できるものではない。
 利益の再投資の少なさも指摘される。欧州では洋上風力が生み出した利益の一部を地元の教育や環境保護に再投資する仕組みがあるが、日本では進んでいない。
 洋上風力の運転は能代港で令和4年12月にスタートした。一般海域の能代市・三種町・男鹿市沖では8年4月、八峰町・能代市沖では同1月に工事が始まる。秋田銀行は「洋上風力の恩恵を一般海域でどう広げるかが課題だが、ハードルは高い。陸上工事などは一部の地元企業で固められているが、風車本体の内部は手を付けられない。国内に先駆けた事業なので、前例がない難しさがある」と先行きには不透明感も漂う。
 洋上風力の関係自治体でつくる全国洋上風力発電市町村連絡協議会(会長・斉藤能代市長)は今年度の総会で、国への要望活動として洋上風力を電源立地交付金の対象にすることを求める事業計画を決めた。発電施設がある自治体に配分される電源立地交付金は原子力や水力、地熱などが対象だが、要望ではこれに洋上風力を追加し同制度に関する勉強会も行っている。 
 しかし、この取り組みに対して経済産業省の政策担当者だった政策アナリスト石川和男氏は異を唱える。「これ以上再生可能エネルギーにお金をつぎ込むのかというバランス論の問題がある。洋上風力はFIT(固定価格買取制度)、FIP(市場価格に上乗せ額を加えた形で収益を得る仕組み)があるので、これ以上の交付金は無理だろう」。
 こうした複数の要因が重なって洋上風力事業が地域に根付かず、利益や雇用が地元に十分に還元されにくい構図ができてしまっている。地元に利益を還元し、地域活性化に結び付けるためには、地元企業や自治体が事業に積極的に関与し、地域内で雇用と経済効果を高める工夫が必要だ。

《電源立地地域対策交付金と再エネ賦課金》
 電源立地交付金は原子力や水力など発電所の設置や運営を円滑化するため、電源が立地する自治体に交付される。原資は電源開発促進税で、電力会社が販売する電気に対し消費量に応じて課税される。電気料金に上乗せされる形で最終的に電力消費者が負担する仕組みだ。
 能代火力発電所1、2号機建設時に能代山本4市町に男鹿市、大潟村を加えた6市町村が総額48億円の交付を受けた。半額交付された能代市では能代球場、子ども館、市立図書館の建設などで活用。3号機の増設では、国が平成22年に地球温暖化対策などを理由に沖縄県を除き火力発電を交付の対象外としたため、交付されなかった。洋上風力など再生可能エネルギーに交付金制度は適用されない。
 再エネ賦課金は、風力や太陽光など再エネ普及のため、費用を電気料金に上乗せして電力消費者が負担する制度。固定価格買取制度(FIT)の資金を補うため、24年に導入された。カーボンニュートラルの実現に向けた重要電源となる洋上風力は、電源立地交付金の対象にすべきと関係自治体から要望が出ている。

(若狭 基)

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