新型コロナの現在地~5類移行1年②

 能代山本地域の経済に大きな打撃を与えた新型コロナウイルス禍。感染症法上の位置付けが5類に移行して間もなく1年となる中、経済活動が活発化してきた。体力を奪われ廃業を余儀なくされた事業所がある一方、コロナ禍を創意と工夫で乗り切ろうと試行錯誤した企業は働き方の改革や新たな事業展開、情報発信の強化など時代に合った取り組みで成長の機会をつかみつつある。明るい兆しが見えるとはいえ、人材不足や物価高騰による影響は大きく、各企業の模索が続いている。

(若狭 基、川尻 昭吾)

いまだ模索は続く

コロナ禍の収束で経済活動は活発化も、模索が続く
コロナ禍の収束で経済活動は活発化も、模索が続く

 木製建具や家具を製造する「マルサ」(能代市向能代)の佐藤哲也社長(41)はコロナ禍を「営業展開の空白期間と言えるほど厳しいものだった」と振り返る。
 国内で感染拡大が深刻となっていた4年6月、常務から社長に就任。インバウンド(訪日外国人旅行者)の増加を見込んだ有名観光地の宿泊施設などへの製品納入を強化しようとしていた中で苦境に直面した。
 人の移動が制限され、インバウンドのみならず国内旅行もしぼみ、観光地で計画されていた宿泊施設の新設・改修の多くが延期や中止となり、営業をかけられる先が激減。3年度から4年度上半期の売り上げはコロナ禍前に比べ3割減った。
 状況が変わり始めたのは5年度に入ってから。コロナの5類移行後を見据えて観光地の宿泊施設改修などに動きが出始め、営業を強化して受注を重ねた。同年度の売り上げはコロナ禍前の水準まで回復した。
 社長としてのスタートを「どん底だった」と振り返るが、コロナ禍を経て得たものもあった。職人のこだわりと技術力を前面に打ち出すことだ。「インバウンドも復活し、新設や改修が計画される宿泊施設には、内装デザインの美しさなど、高付加価値が求められている。自社が得意とする『一点もの』の建具や家具は、そのニーズに応えられる自信がある」と受注拡大に意欲を燃やしている。

■試行錯誤生きる
 重機レンタルなどを展開する「幸和グループ」(同市浅内)の福田幸一社長(57)は「コロナ禍で試行錯誤してきたことが今に生きている」と言う。
 コロナ感染で会社を休む社員の家族構成や家庭の実情を把握する過程で社員との接点が増え、コミュニケーションが強化された。社員の健康管理に目が向くようになり、社員自身も健康管理への意識が向上したという。福田社長は「風邪やインフルエンザで休む社員が減った。また体調が悪い場合は以前のように無理して出社することがなくなった」とプラス面を実感する。
 コロナ禍の少ない人員で人繰りするために行ったシミュレーションが現在進める時短に生きており、残業時間も減った。福田社長は「必要のない書類づくりなどを無くして業務の効率化を進めたことが結果的に今の時代に合ったものになっている」と話す。

■影響長引く業界
 タクシー業界は、コロナ禍で特に打撃を受けた業界の一つだ。「第一タクシー」(同市万町)の中嶋吉博社長(60)によると、2年5月ごろから影響が深刻化した。会食や会合、懇親会などを控える動きが広がり、利用客は激減した。
 4年1月に能代保健所管内でクラスター(感染者集団)が相次ぎ、感染が拡大した際は、さらに状況が悪化。会食後の利用だけでなく、感染を避ける思いから医療機関の受診控えが発生、通院による利用も減少した。中嶋社長は「お客さんを安全に目的地まで届けるという、仕事をする意味さえ否定されたようで非常につらかった」と振り返る。
 利用減は、ドライバー不足にも拍車を掛けた。県ハイヤー協会能代山本支部長も務める中嶋社長によると、県内のタクシー会社ではコロナ禍に人員整理を行ったところもあり、5類移行後も人材確保難が続く。市内タクシー会社は昨年9月までに未明から早朝の運行を取りやめた。
 買い物や通院などによる利用は平常に戻ってきたが、夜の飲食後の利用は少ないまま。タクシーがつかまらないことを懸念して夜の街を早めに切り上げる客は少なくなく、その影響がタクシー業界の厳しさに跳ね返る。中嶋社長は「ネガティブなスパイラル(螺旋、らせん)から抜け出せないでいる」と表情を曇らせた。 
 飲食業界も人流の制限や時短営業で大きな痛手を受けた。同市で飲食店2店舗を経営する「エモーショナルダイニング」はコロナ禍で減収したが、5類移行後に客足が戻ってからは、コロナ禍前より売り上げが伸びている。
 コロナ禍で初めてテイクアウトやオードブル、昼営業を開始するなど業態を見直した。SNS(インターネット交流サイト)による情報発信も強化した。コロナ対策の一環で始めた事業展開が現在の売り上げ増につながっており、田中秀範社長(49)は「コロナ禍に何も対策を取っていなかったら売り上げは落ちていただろう」と明かす。

■攻めの姿勢貫く
 コロナが落ち着きを見せる中、物価高騰という新たな問題に直面している。田中社長は「人件費、光熱費、食材費が高騰したせいで、経費がかかり増しし、収益を圧迫している。コロナも苦しかったが、今も苦しい」と漏らす。猶予していたコロナ融資の返還も来年から始まる予定で「大変な状況が予想される。その意味でもこれから新たに始める弁当事業を軌道に乗せなければならない。見通しは良いとは言えないが、攻めの姿勢でいかなければ、今後も続く難局を乗り切ることは難しい」と語った。

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