退任インタビュー下 秋田洋上風力発電社長・岡垣啓司氏
運転管理軌道に
──風車の建設、運転中にはトラブルもありました。
「令和3年夏に基礎杭の打設音騒ぎがあった。想定外の出来事だったが、聞いた事のない音だという問い合わせがほとんどで苦情は少なかった。ビラ、新聞広告、自社ホームページ、電話窓口などあらゆる手段を使って住民への周知に努めたが、励ましの言葉もあり、洋上風力の意義を理解してもらえたと思う。5年9月には風車から油が漏れて一部が海に漏れ出すトラブルが2度起きた。原因はメーカー従業員の人為的なミスだったが、二重三重のチェック体制を構築し、再発防止を徹底している」
──地域に与える経済波及効果は。
「開発、建設、運転のすべての段階で技術的に可能な限り県内企業および人材を起用した。建設段階では陸上の送変電設備、洋上の洗掘防止工、作業員輸送船(CTV)、港のヤード整備も県内企業を活用した。運転でもメンテナンスの一部は丸紅の100%子会社・丸紅洋上風力開発(MOWD、東京)、大手風車メーカーのベスタス・ジャパン(東京)が地元企業を活用し、現時点でできる限りのことを行っている。開発から建設に至る事業費約1千億円のうち、地元受注額は建設段階で100億円余りと全体の10%を超える。AOW案件の実績を生かし、今後の一般海域の案件でも地元企業のさらなる受注獲得を期待している」
──反省点は。
「国内1号案件だったこともあり早期に県や市と連携して地元企業と十分なマッチング機会を設けることが難しかった。実際に進めてみなければ分からないことが多かったが、これから能代市・三種町・男鹿市沖や八峰町・能代市沖などで進む一般海域の案件に向けても道筋を付けることができたと考える」
──三菱商事(東京)の事業体が8年3月に能代・三種・男鹿沖で着工する一般海域の案件は能代、秋田両港のプロジェクトを大きく上回る規模だが、地元受注をどう見ますか。
「国内1号案件で受注率10%超を確保できたので、地元企業がより積極的に取り組み、そこからさらにどれだけ積み増せるかだと思う。大館市の東光鉄工がダビットクレーンを作ったりと設備投資をしているが、数年前では考えられなかったことだ」
──運転開始から1年余り。進捗状況は。
「安定感を増している。総勢60人の現場体制下、運転管理は軌道に乗ってきた。風車の稼働率も高く維持できており、ほぼ計画通りの発電量となっている」
──今後の展望は。
「秋田県は今後も間違いなく日本の洋上風力のトップランナーであり続ける。秋田は基地港湾を二つ抱え圧倒的に優位なポジションにある。政府が再生可能エネルギーの切り札と位置付ける洋上風力事業では産業振興や人材育成という大きな指針が出ている。県や市でしっかり旗振りをし、後続の事業者も含め地元産業界と連携しながら中長期視点で産業育成を進め、秋田の新たな一大産業として洋上風力関連産業を育てていくことを切に期待している」
「発電事業は息が長い取り組み。能代、秋田両港の事業も今後19年間運転するので、ここで人材を育て、巣立ってからもほかの事業で活躍できるような人材ローテーションの生みの親としての役割を果たしたい」
──岡垣氏は3月で出向期間を終え、丸紅本社(東京・大手町)に戻ります。
「能代、秋田両港を含む国内外の洋上風力と国内の陸上風力、水力、バイオマス、地熱、太陽光を所管する丸紅洋上風力・国内再エネ事業部長になる。AOWの非常勤取締役としても引き続き能代、秋田両港の案件を東京から見続けたい」