歌い継ぎ、語り継いで
8月のお盆前、帰省した幼なじみと能代市二ツ井町の飲食店に入ったら、女性2人が聞き覚えのある曲を歌っていた。
能代市二ツ井町出身の伊藤豊昇さんと藤里町藤琴出身の市川善光さんのフォークデュオ「とんぼちゃん」(のちにとんぼ)のアルバムに収められた「スクリーン」だった。
「とよ」こと伊藤さんが作詞作曲した。
歌詞を変えて稲垣潤一さんが「月曜日にはバラを」として歌唱、それがカラオケにあり、とんぼファンは伊藤さんの歌詞で歌う。
「スクリーン」を歌っていたのは伊藤さんのめいと、関東から訪れたというファンだった。
その伊藤さんが3月8日に亡くなった。67歳。
とんぼを解散後、ソロとして数年活動していた頃、学生時代にライブに何度も足を運んだ。
その後しばらく音楽を離れたが、ファンの要望に応え20年前の秋、二ツ井で「とよを囲む会」を開き、県内外から集まった約40人を前に弾き語りし、きりたんぽ鍋を食べながら交流した。
その様子を伝えたコラムを、スクラップブックで読み返し、伊藤さんと話をしたあの日を懐かしんだ。
「よんぼ」こと市川さんは、仲間とライブ活動を続け、とんぼの曲を中心に歌っている。
かつてのファンが望んだ「もう一度同じステージに」の願いはかなわなかった。
伊藤さんの訃報を受け、インターネットのさまざまなサイトに惜しむ声や、青春時代に元気をくれたことへの感謝の言葉が寄せられた。
そうした中で、二ツ井の囲む会に同行した星野荘一郎さんが、女性シンガーとのユニット「RABBITS MOON」として伊藤さんの曲を歌い継いでいたのを知った。
今年も多くのアーティストがこの世を去った。
残してくれた歌を歌い継ぎ、語り継ごう。
(池端 雅彦)