美術を通した「居場所」
コロナ禍が落ち着いた今年は、地域で「居場所づくり」が活発だった。
高齢者が集うサロンや趣味のサークル活動、不登校や引きこもりを支援する活動などを取材する機会が多く、人が集まることが避けられてきた昨年までとは対照的な光景に、多くの人がつながりを求めていると感じた。
取材を通して、印象的な居場所に出合った。
多摩美術大出身で、能代市内などで絵画教室を開いている富樫知里さん(42)=同市坊ケ崎=による居場所づくり活動「美術ノマド」だ。
「美術を通していろいろな世界をのぞいてほしい」という思いを込め、生きづらさを抱えた人や保護者、その支援者を含めた集いの場として、今年6月に市内の古民家を活用したフリースペースで始めた。
月1回の講座には、絵やものづくりが好きな人が足を運び、富樫さんの日本画の制作活動を見学したり、自由に絵を描いたり、アート作品を作ったりして過ごす。
初回の講座を取材した際、訪れた人たちが絵を描く富樫さんを囲み、笑顔あふれる和やかな雰囲気がとても温かかった。
講座のほか、県内外の美術作家の絵画などを集めた展覧会や即興パフォーマンスイベントなども企画し、幼児から高齢者まで多くの人にアートの世界の入り口を開いている。
「世の中にはたくさんの表現があふれていることを、子どもたちや若い人たちに知ってもらいたい」と富樫さんは話す。
生きづらいと感じることは、何も特別なことではなく、誰もが多かれ少なかれ悩みを抱えて生きていると思う。
絵や音楽、芸術には人を救う力があり、つらい時には心のよりどころになることもある。
言葉以外のコミュニケーションで新しい世界を体感させてくれる「美術ノマド」を来年も、のぞいてみようと思う。
(成田 結子)